日本木酢液協会は木酢液・竹酢液の有効利用と関連業界の発展を図ることを目的とした団体です。

構成成分、用途の概要等

木酢液の特性と利用

(改訂4版 木材工業ハンドブック 森林総合研究所監修 丸善 p.1023-1032より抜粋)

a.炭化の過程と木酢液の生成

木材等の植物原料を加熱していくと、水分が蒸発し原料が乾燥状態になった後、構成成分の熱分解がおき、煙が生じる。この煙を冷却して得られる水容液が木酢液である。炭化の過程(黒炭窯の例)について、特に炭化温度と木酢液の留出量、比重、煙の色の間の関係を表1に示した。1)

炭材に点火、ついで着火後しばらくは炭材の水分の蒸発により白煙となり、煙突口の温度も70~80℃前後で、得られる木酢液は低い沸点のものが多く比重も小さい。着火後、炭材が乾燥し、炭化も進んでくると煙の色は白色から青薄紫色となり、最終的には無色となり、煙突口の温度が250℃を越えるころには、煙がでなくなる。木酢液の比重は、炭化が進むにしたがい大きな値となる1)。

煙の成分には、木材の主要成分であるセルロース、へミセルロース、リグニン等が熱分解したものが多く含まれる。このうち、ヘミセルロースが最も加熱に対して不安定で180℃前後で熱分解を始める2)。次いでセルロースが240℃前後で熱分解を始め3)、リグニンが280℃前後で熱分解をおこし始め4,5)、これらの熱分解物が煙となって揮散していく。

この煙からは木ガスと、冷却されて液化する液化生成物(粗木酢液)が得られる。液体生成物は静置すると二層または三層に分離する。上層の赤茶色の水溶液が粗木酢液で、下層の黒色の液体が木タール、または沈降タールと呼ぶ。三層の場合は、粗木酢液の表面に薄い油状の膜ができる。この膜も木タールの一部であり、沈降タールを重質油と呼ぶのに対し、軽くて粗木酢の上に浮くので、軽質油と呼ぶこともある。木酢液と木タールの成分は完全に分離しているわけではなく、お互いに少しずつ溶け込んでいることが多い。粗木酢液を蒸留すると留出物と残留物が得られる。留出物は精製木酢液で、残留物は粗木酢液に溶けていた木タールの一部であるので溶解タールと呼ばれ、沈降タールとは区別される(図1)。

粗木酢液中の溶解タール含量の比率は木酢液の品質を決める基準の一つとなる。

b.木酢液の構成成分

炭窯による木酢液の構成成分はその10~20%が有機化合物で、残りの90~80%は水分である。一般に乾留木酢液では炭窯木酢液より有機化合物含有量が高い。有機化合物中の成分は酸類、アルコール類、フェノール類、アルデヒドやエステル類などの中性物質類、塩基性類等から構成されている。それぞれの木酢液の構成成分の種類には炭材が異なっても大きな違いはない。

木酢液の主要成分は酸であり、その中でも酢酸含有率が最も高く、木酢液の名前の由縁となっている。アルコール類の中で最も含有率の高い物質はメタノールである。フェノール類は、炭材の構成成分の特徴が現れやすい。大別すると、炭材が広葉樹、針葉樹、竹で区別でき、一般に針葉樹ではグアヤシル型の化合物の比率が高く、広葉樹及び竹ではこれに加えて、シリンギル型の化合物の比率が高い7)。グアイアコール、クレゾール類は、木クレオソートの重要な成分でもある8)。

木酢液成分のうち、酢酸、プロピオン酸などの有機酸、メタノール、アセトイン、シクロテンなどのアルコール類、アセトン、フルフラールなどの中性物質は、主としてヘミセルロースとセルロースから生成し9)、フェノール、クレゾールなどのフェノール成分は、主としてリグニンが分解して生成する10)。木酢液の主成分である酢酸は、木材中のヘミセルロースのアセチル基とウロン酸部分のカルボキシル基の分解により生成され、メタノール は構成成分のメトキシル基から主として生成することが明らかにされている2,3,11,12)。

c.木酢液の香り

木酢液の香りは、炭材の種類によって異なるが、香りに含まれる成分の種類にはあまり差がなく、個々の含有成分の含有率に大きな差がある13)。香りの構成成分は酸類、フェール類、シクロペンテン、フルフラール等の中性物質などが主な構成成分である14)。

d.木酢液の精製法

木酢液の成分には、重合、酸化、変色をおこしやすい成分が含まれている。したがって、木酢液は採取後、経時的に変化し、保存容器の器壁や底にタール状の物質が付着してきたり、木酢液の表面に油性物質が浮遊したりする。そのため、使用する前には適切な精製が必要になる。精製法としては、静置法、濾過法、蒸留法(常圧蒸留、減圧蒸留)、分配法等がある15)。

分配法とは木酢液の液の性質を変えることにより、酸性、中性、塩基性、フェノール性、カルボニル成分に分画する方法であり、含まれる成分の概略を知る上では重要な方法である(図2)1)。

e.木酢液の用途

木酢液の用途は幅広い。表2に木酢液の用途別販売量を示した16)。割合の多い用途は、農業用、畜産用、飼料添加用等である。木酢液には様々な機能があり、これらの機能を活かした用途が開発されている。表3は最近の木酢液の実用例と研究例をまとめたものである。

 


引用文献

1)栗山 旭:木酢液利用に関する特別研究報告書、科学技術庁、3-17(1966).
2)K.Minami, K.Kawamura : 日林誌、40(2), 61-67(1958)
3)K.Minami, H.Orii, K.Kawamura : 日林誌、39(12), 474-479(1957)
4)芝本武夫、南 享二、遠藤健治郎:日林誌、34,48-52(1952)
5)芝本武夫、南 享二、児玉忠雄:日林誌、34, 77-82(1952)
6)林業試験場編:木材工業ハンドブック 改訂3版、丸善、907(1982)
7)松井直之、大平辰朗、谷田貝光克:第51回日本木材学会研究発表要旨集、385(2001)
8)N.Ogata, T.Baba : Research Communications in chemical Pathology and Pharmacology, 66(3), 411-423(1989)
9)R.T.Schwenker, L.R.Beck : J. Polymer Sci. part C. 2, 331 (1963).
10)T.L.Fletcher, E.E.Harris : Tappi, 35, 536 (1952)
11)K.Minami, K.Kawamura, N.Oshima : 日林誌、40(2), 68-79(1958)
12)M.M.Tang, R.Bacon : Carbon, 2, 211 (1957)
13)大平辰朗:New Food Industry, 43(6), 9-19(2001)
14)大平辰朗:New Food Industry, 44(6), 39-45(2002)
15)谷田貝光克、山家義人、雲林院源氏:簡易炭化法と炭化生産物の新しい利用、林業科学技術振興所、63-67 (1995)
16)日本木炭新用途協議会:木炭新用途、9, 1-6(2001)
17)岸本定吉:山林、1130, 27-33 (1978)
18)坂井田節、塩谷栗夫、田中稔治:家禽会誌、24(1), 44-49(1987)
19)宮本雄一:農業及園芸、36(10), 1637-1640(1961)
20)野原勇太、陣野好之:林試研報、96, 105-128(1957)
21)宮本雄一:日植病報、26(3), 90-97(1961)
22)池上文雄、関根利一、藤井祐一:薬学雑誌、118(1), 27-30(1998)
23)谷田貝光克、大平辰朗、堀啓映子:特願2001-16503
24) 坂井田節、塩谷栗夫、田中稔治:家禽会誌、24(6), 374-377(1987)
25)新見友紀子、谷田貝光克、柴田晃:第50回日本木材学会研究発表要旨集、447(2000)
26)竹井 誠:東海水研報、46, 61-68(1966)
27)七宮 清:神奈川林試報、(8), 1-4(1962)
28)M.Yatagai, G.Unrinninn : Mokuzai Gakkasihi, 35(6), 564 571 (1989)
29)H.Yoshimura, T.Hayakawa : Trans. Mycol. Soc. Japan, 34, 141-151(1993)

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